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新たな時代の価値を創り直す

新世紀を迎え、日本中の誰もが明るい時代を期待していました。しかし、バブル崩壊に端を発した不況は長期化。なかなか脱することができない中で、やがて人々の生活の価値観に様々な変化が起こります。たとえば食に関しては、価格の安さだけでなく様々な付加価値が求められるようになりました。日本マクドナルドは2001年に上場を果たすも、BSE(牛海綿状脳症)の風評被害、長期間にわたり継続された大量出店や、連続した低価格メニューの影響などにより2002年には赤字に転落してしまいます。そこで新時代における日本マクドナルドの新たな価値を模索し、QSC&V(Quality/最高の品質・Service/心地よいサービス・Cleanliness/清潔で快適な空間・Value/価格以上の価値)の原点回帰およびバリュー戦略の見直し、来店者数の拡大戦略、新商品の強化に着手。ブランドの再構築を図っていきました。

JASDAQ市場に上場

JASDAQ市場に上場

  • 1.変化する食の価値観―信頼の再構築―
  • 2.多様なニーズに応えるサービスを―新たなブランド価値を構築―

変化する食の価値観―信頼の再構築―

この時代は食の分野においては、安全性への信頼が揺らいだ時代でした。BSE(牛海綿状脳症)問題による牛肉全体に対する不安(=イメージ)や、国が定めたBSE対策制度を悪用した牛肉偽装事件など相次いで起こったのです。消費者は食への関心を高め、次第に安全性も重要視して食事のあり方に大きな変化が起きました。
一方で、―NO.1にならなくてもいい もともと特別なOnly one―。国民的アイドルグループSMAPが個性や多様性の素晴らしさを歌った『世界に一つだけの花』が大ヒットを記録したのは2003年のことでした。まさにこの2000年代は価値観やライフスタイルが多様化した時代です。そのような変化をもたらした理由の一つに、パソコンや携帯電話などの情報端末の普及が挙げられます。様々な情報に触れる中で、一人ひとり異なる価値観が醸成されていきました。

この頃マクドナルドは、90年代から取り組んできた積極的な出店戦略を継続し、数年前にスタートさせた低価格の取り組みに拍車をかけていました。1995年から130円で販売していたハンバーガーは、平日限定で半額の65円に。これがさらに大きな話題を呼び、多くのお客様がマクドナルドへと足を運んだのです。2001年にはJASDAQ市場に上場。翌年には店舗数を約3,900店舗にまで拡大するなど、国内外食企業における地位を確固たるものにしつつありました。
しかしその後、事態は大きく変わります。
上場した矢先に、国内で発生したBSE問題は、社会的に大きな問題となりました。牛肉のイメージに影響し、食に携わる業界全体に深刻な影響をもたらしていきました。日本マクドナルドもその影響を大きく受けることになります。2002年、セールスは大幅に落ち、日本マクドナルドは赤字決算となったのです。BSEの風評被害は長期にわたりマクドナルドのビジネスに影響をあたえました。また、継続して行われた低価格の施策や大量出店もその要因でした。2000年から続いたハンバーガーの平日半額キャンペーンを2002年に終了したのち、価格を80円に固定しましたが、価格を短期間で変えたことによってお客様の価格に対する信頼感がうすらいでいきました。一方、多くの小規模な店舗を全国のいたるところに出店したことによって、マクドナルドの認知度は大きく高まり、現在のビジネス基盤の構築にもつながりました。その反面、ビジネス環境の悪化に伴い、自社内競合が起き、既存店舗のセールスに影響が出始めてしまいました。さらに急速に増加した小規模な店舗では提供できるメニューの数が限られたため、プロモーションの効果が取れず、お客様の満足度にも影響をおよぼしてしまいました。

発売されたウインドウズ2000を手に取るパソコンユーザーたち 写真:毎日新聞社提供

発売されたウインドウズ2000を手に取るパソコンユーザーたち
写真:毎日新聞社提供

多様なニーズに応えるサービスを―新たなブランド価値を構築―

日本マクドナルドは再び立ち上がるため、新時代の新たな価値を模索することになります。
2004年に原田 泳幸が代表取締役社長に就任しました。新社長のリードのもとブランド価値の再構築へと歩み始めました。最初に手がけたのは、ハンバーガーの美味しさの改善でした。作り置きをやめ、注文を受けてから調理を開始する新調理システム「メイド・フォー・ユー」を全店に導入。すべてのお客様に、スピーディーに、できたてのおいしさを味わっていただけるように改善しました。さらに、マクドナルドの基本原則であるQSC&Vを徹底。お客様がどの店舗を訪れても快適なお食事体験を受けられるようトレーニングの強化を実施しました。
これら食ビジネスとして最も大切なことをまず徹底し、そして、“お客様にとってお気に入りの食事の場とスタイルを提供する”ことを新しいミッションとし、100円マック、新バリューセットや新商品“えびフィレオ”など、 様々なバリュー(価値)の提供をスタートしたのです。
2006年には働く時間や生活スタイルの多様化が進んだことを受け、どの時間帯に訪れてもその時の気分やニーズに合ったメニューを提供する「スーパーコンビニエンス」を目指し、大量に24時間営業店舗の展開を開始しました。2008年には「プレミアムローストコーヒー」を発売、100円という価格にもかかわらず深い味わいの本格コーヒーを楽しめることが大好評で、コーヒーの目的来店が大幅に増加。さらに同年にはハンバーガーをガッツリ食べたい方に向けて、一般的なハンバーガーの約2.5倍もあるビーフパティを挟んだ「クォーターパウンダー」も発売。牛肉本来の旨さをしっかり味わえることと、そしてその魅力を伝えるユニークなプロモーションを展開し、大きな話題となりました。
前例にとらわれない多様な商品展開やマーケティング、そしてサービスを打ち出したことで、幅広い層のお客様の心をつかむことができ、次第に店舗に活気が戻ってきました。
ついに2008年、外食産業初の年商5,000億円を達成。苦難の時代を乗り越え、この年から7年連続増収というV字回復を果たします。長い時間をかけて日本マクドナルドは価格だけでないバリューを再構築し、お客様にFUNを提供できるブランドとして再生したのです。

新調理システム「メイド・フォー・ユー」

新調理システム「メイド・フォー・ユー」